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原 石 編

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2003年7月号【孔雀石のふしぎな産状】
2003-07-01
-コンゴ民主共和国(旧称ザイール)
コボレラ鉱山産 (一番下は通常のもの)-
 
【孔雀石のふしぎな産状】
洋名と和名の語源が異なるもののひとつ。
イタリアの小地方で、古くから習慣でお守りとして身につけた石がある。
マルウァ属(アオイ科)の植物(英名ではMallow)の葉の色に似ていることから『マロウの石(Malachite)』と呼ばれるようになったその石は、色と斑紋が大きく羽根を広げて敵を威嚇する孔雀の羽根の模様に似ていた。それを身に着けることによって、邪悪なものから自分の身を守ると信じたというわけである。
日本ではそのような信仰はなかったが、渦巻き状の模様を孔雀の羽根に見立てて孔雀石と呼んだ。
ロシア ウラルのニギリ・タギリスク鉱山は古来から有名な産地である。日本でも秋田県の荒川鉱山等で小規模ながらも良質の孔雀石を産出し、江戸時代には箸や根付けの帯締め玉などに作られた。
この鉱物は"含水酸基炭酸銅"で、銅鉱床の上部に生じる二次鉱物である。銅製品の表面に生ずる『緑青』と呼ばれる"錆び"と同等のもので、風化により銅鉱物が分解し錆びて生じたものである。銅鉱石の表面が炭酸ガスや水分に覆われて分解が生じた場合、表面に付着している水溶液の中に微細な結晶が雨後の竹の子のように成長し出す。結晶は単斜晶系に属するが、目に見えるように大きく結晶することはなく、稀に微小な針状の結晶を示す程度である。通常のマラカイトでは、溶液の量や濃度の繰り返しで目には見えない微細な結晶が集合して、それが独特の縞模様を形成する。
孔雀の羽根のような模様や縞模様は、その結果としてできたものである。その質と量を問わなければマラカイトは世界中に広く産出する。しかし装飾に使えるような良質のものを大規模に産出する鉱山は数えるほどしかない。残念なことに、ウラルの鉱山も日本の鉱山もすでに取り尽くされたようで、現在良質の原石を大量に産出しているのはアフリカのコンゴ民主共和国である。写真の標本も同じである。
ところでこのマラカイトはいったいどのようにしてできたのだろう。銅鉱石の内部に存在した空洞部に、天井の割れ目の中を通って染み込んできた水分や炭酸ガスがマラカイトを生じさせ、空洞内の天井を覆った。やがてその天井部に溜まりきれなくなった水滴は、滴たり落ちてグリーンの鍾乳石を形成した。銅鉱石の空洞内にマラカイトの森が生まれたのは大変に長い年月であっただろう。
それはなんとも不思議な光景だ。木陰からピーターラビットがこちらを見ているようだ。
 
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