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原 石 編

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2003年9月号【アスパラガス・ストーン】
2003-09-01
【アスパラガス・ストーン(Asparagus stone)】
『アスパラガス・ストーン』 という愛称で呼ばれる鉱物(宝石)がある。黄色から黄緑色をした“アパタイト”のことを例えて表現したものである。このような呼び方は、宝石の世界に特徴的なものである。しかしこの呼称、じつはその発生がどこにあったのかがはっきりしていないのである。どこかの鉱山で“ローカル・ネーム”として呼んでいたものが広まったのだろうが、もっとも確からしいものは結晶の色が“フレッシュ・アスパラガス”の様で、それに例えてつけられたというものである。アパタイト(Apatite)は和名を“燐灰石”というが、和名がその成分【Ca5(Po4)3F】から来ているのに対し、意外にも洋名の方は“その形が定まらず紛らわしい。まるで欺くようだ”という意味から来ている。
この鉱物は 『六方晶系』 に属し、典型のものは6つの柱面からなる角柱状をしているが、中には柱の上下に6つの錐面が加わり“水晶”のように見えたり、また柱の上下は平らで“緑柱石”のように見えるものもある。またこれらと異なり、六角形の板状結晶も知られている。というわけで、かように“晶癖”が定まらないのでこう呼ばれたのである。
ところで黄色から黄緑色のアパタイトの中には、通常の柱面(m)と別の柱面(a)が組み合わさって12角柱になって一見して丸くなるものがある。そしてそこに錐面が加わると、円錐状に見えるようになる。そのようなものでは、その色と形から“アスパラガス”という発想がでたのだろう。それは分からなくも無いが、筆者にはその理由に対してはじつは長い間もやもやとした上でのなっとくが付きまとっていた。しかしこの標本を見たときに、まさにそのもやもやが吹き飛んだ。まるで土を押し上げて“ホワイト・アスパラガス”が頭を出しているように見える。
話を現実に戻すが、この標本はそのイメージだけでなく、じつは極めてユニークなのである。今貴方が目にしている結晶は、アパタイトではなく『カルセドニー(Calcedony)』なのである。アパタイトのはずが、形状を残したまま成分がそっくり“珪酸(SiO2)”に置き換わってしまっている。その形態から、元々はアパタイトであったことはわかる。このような状態を 『仮像 or 仮晶(pseudomorph)』 と呼ぶ。元は金属鉱脈やペグマタイト鉱床などにできたアパタイトが、熱水作用を受けて変質して珪酸に変わり、今はカルセドニーとなってしまったというわけである。
この珍しい標本はアフリカのタンザニアで発見されたものなので、当所の標本室では、ジョークで 『フォッシル・アフリカン・ホワイトアスパラガス』 と呼んで、化石のコーナーに並べている。
 
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