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原 石 編

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2003年10月号【サンダーエッグ】
2003-10-01
【サンダーエッグ(Thunderegg)】
写真は鍾乳洞の内部である。ただし通常の鍾乳洞ではなく、見えている鍾乳石はカルサイトのものではない。じつは『玉髄(カルセドニー)』で形成された鍾乳石である。しかもその大きさは手のひらに乗ってしまうほどに小さなものである。この形状はいわゆる『サンダーエッグ』と呼ばれているもので、玄武岩などの溶岩中に含まれていたガスが抜けてできた空洞部に侵入した熱水中から瑪瑙が形成されてできたものである。形成後にその母体である玄武岩が風化して崩壊し、空洞部だけが分離して後に残されたもので、卵のような形状をしているところから『エッグ』と呼ばれて愛好される。
サンダーエッグ、つまり“雷鳥の卵”だが、それは西洋の古い言い伝えから付けっられた呼称である。西洋では、大地を押し流すような雷鳴とどろく大雨は、天の上の世界で壮絶な戦いを繰り返している巨大な鳥のせいだと信じられてきた。面白いことに、日本では雷鳴は天狗の仕業と古くは信じられていた。
雷鳥が激しい戦いの最中に卵を下界に落としてしまったと考えたのである。
しかしその卵、実態は瑪瑙の殻(外壁)を持つ晶洞に過ぎないもので、正式には『晶洞団球(ジオード Geode)』という。風化により、土壌化していた中に埋もれていたジオードが激しい大雨の後に露出した様を見て、昔の人達は天から落ちてきたと思ったのだろう。
ところでサンダーエッグを割ってみると、ほとんどの場合は周囲の壁が瑪瑙で出来ており、その中が大小の空洞になっている。そこには水や粘土が詰まっていて、内壁は水晶の結晶群で埋め尽くされている。それはアメジストである事も珍しくない。時には中心部までが瑪瑙のこともある。
ところでこのエッグ、瑪瑙の壁には水晶は無く、前述したとおり代わりに天井の壁から玉髄の鍾乳石が垂れ下がっている。エッグの成因から考えると普通ではこのようなことは考えられない。通常のエッグでは脱気空孔中に侵入した熱水から沈殿した微細な石英粒が侵入口を閉ざしてしまい、後に温度が低下するにつれて熱水中の珪酸は瑪瑙として空洞壁を被覆する。その残液は希釈され、生じた内圧から空洞壁には無数の水晶を成長させて形成は終わり、そして内部には残りの水が静かに閉じ込められた。
しかしこの標本ではその閉じ込められが起こらなかったようだ。天井部の空洞壁には亀裂が生じ、そこから内圧が抜け溶解度が変化した。その溶液中から微細な石英粒子が生じたと考えられる。やがて亀裂部分を埋めながら液中に発生した粒子は地球の引力に左右されて鍾乳状に液中に氷柱を形成したと考えられる。一部の氷柱が湾曲して踊っているのは液中で温度変化が生じ粒子が舞った為である。
この事からこのエッグが内包された玄武岩は、その周囲が長い地質時間の間に何度も熱せられては冷却したことがわかる。このようなエッグは極めて稀である。 この標本はモロッコのOurika Valleyから産出された。
 
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