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カット石編

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2003年8月号【水入り水晶】
2003-08-01
-中華人民共和国 四川省 赤昌産-
【水入り水晶(Enhydrous quartz)】
「上には飛ぶ鳥も無く、下には走る獣も無い」これは『法顕傳』の中の有名な一節で、中国の法顕(337~422)は高齢をおして戒律の経典を求めて入竺を目指した。彼は途中西秦の炳霊寺石屈で夏坐を行ったとされる。炳霊寺の石屈は黄河畔にあり、シルクロード途中の渡し場として知られた所である。彼が石屈から見た月はこのようなものだったろう。
実はこれ、『水入り水晶』である。水入り水晶とは、水と気泡からなる二相を持つ水晶のことである。鑑別していると、時々顕微鏡の中に二相包有物を見つけることがある。水晶に空洞がある場合、詳細に観察すると、水(液相)の中に小さな気泡(気相)が入っているのを見つけることがある。ゆっくりと水晶を傾けると、水の中の泡がゆっくりとからコロッとまで動く。時にはこの水が油のこともある。
しかし特別に『水入り水晶(エンハイドロス・クォーツ)』と呼ぶ場合は、二相包有物が肉眼でも見える場合に限られる。別名でウォーター・ドロップ・クォーツとも呼ばれる。
ところで一般に目にする『水入り水晶』は結晶原石である場合が普通である。ミネラル・ショップではなかなか人気のある鉱物で、気泡の動きの見え方によっては結構高価に売られている場合もある。
今回ここに紹介するものは、結晶原石ではない。カット(研磨)された水晶の中に二相包有物が見えるものである。しかもその大きさは半端なものではない。18×15mmのカボション・カットの中に13~10mmの大きさの二相包有物が入っている。石を傾けていくと、空洞の天井に沿って、気泡がまるで満月のように上っていく。泡の動く様を見ていると、なんだか法顕の気持ちになってきた。
しかし現実に戻ると、この水晶を研磨した技術に感心させられる。石の面積のほとんどを占める空洞がある水晶を見事に研磨してある。閉じ込められている液体の種類にもよるが、これだけの大きさの空洞と気泡が入っていると大抵の場合はポリッシュ中に発生する熱の影響で膨張し、本体の水晶が割れてしまう。この水晶を磨いた研磨工に脱帽!
 
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