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カット石編

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2003年9月号【ジェット】
2003-09-01
【ジェット(Jet)】
写真は 『ジェット』 の原石である。我が国でジェットを鑑別又は販売している人はジェットの原石を見る機会はほとんどないのが実状である。もし見る事があったとしても写真のものとは大分様相が異なっているはずである。今我が国の宝飾市場で目にすることができるジェット製品は、代表的なところでは、①イギリス製、②フランス製、③ドイツ製、④スペイン製、そして⑤中国製、⑥台湾製のものである。その内アンティーク市場で見られるものはほとんどが①~④で、反対に現代製品は⑤と⑥のものがほとんどである。
日本では数年前からジェットが盛んに商品としてプロモートされ、イギリスでは1820年から60年の間に、上流階層の社交界で喪の宝飾品として使われた史実を取り上げて販売している。しかしそれはこの宝石の歴史から見るとあまり正しくはない。ジェットは古くは 『ガガーテース』 と呼ばれ、魔よけの護符として使われたり、また船乗り達の間ではそれを持つ事により“沈まない”と考えられ、航海の無事を祈願して使われた。つまり縁起かつぎとして使われた歴史の方が長いのである。
そして現在、一時は沈静化したものの最近また人気が出て来たように感じられる。しかし今日本で見られるジェットは、実際に鑑別してみるとわかるが、アンティーク製品を除けば、かつてヨーロッパで好まれた 『ジェット』 と比べると美しくないものがほとんどである。
最近のジェットはいくつかの点で、日本の鑑別の在り方と流通のあいまいさを我々に見せてくれた。一つはその基準と定義、二つ目は歴史を重視する点で“日本人と宝石の付き合い方”という部分を考えさせる事となった。
今日本では【研磨できる美しいすべての石炭をジェットという】という定義で鑑別された3タイプの“ジェット”が流通している。一つは、かつてイギリスのウィットビーで採掘された硬質の 『ハード・ジェット』 である。二つ目のタイプは、18~19世紀から知られていた軟質で脆い 『ソフト・ジェット』 、そして三つ目のタイプは、燃料として使われる完璧な 『石炭』 である。
写真のものは流木が海底に沈んで炭化した化石で、木の肌が残っていることがわかる。ウィットビーのものは破断面はガラス光沢を有して、研磨すると木目を表して元は木であったことがわかる。ソフト・ジェットは当時のスペインやフランスで多く産したもので、当時から品質は低いとして捉えられていたものである。中国の撫順やアフリカでは多くのジェットの原石が採掘されている。しかしその多くのものはハード・ジェットとは言えない。陸成の炭層中に木の痕跡を残したソフト・ジェットが胚胎されている。そこでは炭層の上の海成層からはハード・ジェットが産出される。しかし中国ではハード・ジェットは貴重な存在で、産出は多くない。反対に、ソフト・ジェットが胚胎されている周囲の、木の組織がなくなってしまった石炭を研磨したものも多く、日本の鑑別の定義に沿ってそれをジェットとして鑑別したものが多いようだ。
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