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カット石編

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2003年11月号【青田石】
2003-11-01
『藍花青田(らんかせいでん)』
なんという美しい名前だろう。じつはこれ印石の種類である『青田石』のひとつを呼んだものである。当所では鑑別という仕事から石印材も収集しているが、印材名は、その鉱物種名との共通性がなく、宝石名の記載に苦慮する。しかしいつもながらその呼称のイメージ性には感心させられる。
ところで、石の趣味というか、嗜好としての対象になるものはいく通りかあって、その歴史上での順に則して挙げると日本では大別して4つの流れとなる。ひとつは平安時代に端を発する水石や盆石と呼ばれる“鑑賞石”でのもの、二つ目は○○、三つ目は明治以降にヨーロッパから学問として持ち込まれた鉱物学に付随する“鉱物収集趣味”でのもの、そして四つ目のものはこれまた同時期に西洋から持ち込まれた“宝石”としてのものである。これらはそれぞれに素材としての『石(鉱物、鉱石、岩石、化石』を異なった好み方でとらえたものである。しかし最近では鉱物趣味と宝石趣味が線引きされずにショーなどで完全に混在して販売されており、何とも悲しいものがある。
話を戻すが、前述の二つ目の趣味が“印石”である。しかし印材と聞いてすぐに頭に浮かぶのは“象牙”“水牛”、ちょっと高級なところでは“水晶”そして“メノウ”といったところか。もっとも大衆的なところでは“柘植”、とても安価でちょっとした間に合わせ的なものには“ラクト”と呼ばれる人工の樹脂が使われている。いわゆる“三文判”である。しかし印材の趣味はそれら実用面での使い途だけではない。
『文房四宝』という言葉がある。文房とは文人の書斎のことであり、その工房に優れた文房具を集めて良い環境をつくり生活していくことを文房清供という。そして四宝とは、そこで使う筆 墨 硯 紙 のことを指した。そして最もよく知られている言葉に『筆硯精良 人生一楽』というものがある。筆と硯の良品を持つことは文人にとってこの上ない楽しみであるということだが、筆硯は四宝の墨と紙をも含めた言葉であり、すべての文房具を含めて代表するといった意味がある。文人は優れたものを収集して文房至宝と称して賛美し、文人の教養として宋代から清代にかけてその文化が生まれた。詩文や書画が作られ、明末からは印石がこれに加わった。篆刻が盛んに行われ、文房五宝的に呼ばれるようになる。文人は玉質感の石を印材として貴び、文房を飾り、時に掌に包み質感を楽しみ、そして雅印として用いた。中国の文人は宝石としてそれを好み、ひとつの文化を作り上げ、わが国にもその文化は伝播した。これが印石の趣味である。しかし宝石とはいっても、それは西洋の宝石の美とは大きく異なる。独特のしっとりとした柔らかく暖かみのある美しさである。
『田黄』と呼ばれる微透明なトパーズのような黄色、『凍石』と呼ばれる白色からやや灰色がかった石英のようなもの、中には欧米人にも好まれる真っ赤な『鶏血』と呼ばれる派手なものもあるが、そのほとんどは独特の美観を備えているものばかりである。そんな中で、唯一他の印材にはない美しさをもつものが『藍花青田』である。淡いクリーム色のベースに鮮やかなブルーの色が点在している。クリーム色の部分は“ディッカイト”、ブルーの部分は“デュモルチェライト”である。写真の中で左と中央は『藍星』、右は『紫羅藍』と呼ばれる。
印石には三大印材というものがあって『寿山』『昌化』そして『青田』が代表的なものとして知られている。青田石は浙江省青田県から産することから呼ばれるのである。
 
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